文明が崩壊した後の遠い未来の世界でも、おばあちゃんの知恵袋は語りつがれていくのではないかという話。

 ぬかるんだ雪道を遊びながら帰ってきた子供たち。クツはびしょびしょ。子供たちのお母さんは言う。「風邪をひくから、クツが乾くまで、おでかけしちゃだめよ」

 子供たちは退屈もあって、家族のなかで一番やさしくて、一番物知りなおばあちゃんに、色々なお話をせがむ。そんな中、子供の一人が、ふとたずねる。「ところで、おばあちゃん。濡れたクツをあっというまに乾かす方法ってないの?」

「うーん。それはおばあちゃんも知らないねえ。ただね、おばあちゃんが子供のころ、おばあちゃんのおばあちゃんから聞いた話なんだけどね。こういうとき、むかしむかしの人たちは、クツのなかに『しんぶんし』というものをまるめて入れたんだそうだよ。

 そうするとね。濡れたクツも、あっというまに乾いたんだってさ。

 おばあちゃんが、まだお前たちと同じくらいのころ、同じようにクツを濡らして退屈していたときに、おばあちゃんのおばあちゃんが、そう話してくれたものだったねえ」と、自身の子供のころを追憶し、子供たちの頭をなでながら、なつかしそうな顔のおばあちゃん。

 一方、子供たちは、顔を見合わせて、おばあちゃんにたずねる。「ねえねえ、おばあちゃん。その『しんぶんし』ってなあに?」

「それは、おばあちゃんにも、おばあちゃんのおばあちゃんにも、どんな物なのかは、わからないねえ。むかしむかし、人間がお月さまの上を歩いたり、お日さまの近くまで行ったりした時代にだけあった不思議な不思議な昔の道具の一つだそうだよ。そんなふうに、おばあちゃんも、おばあちゃんのおばあちゃんから聞いているし、そのおばあちゃんのおばあちゃんも、そのまたおばあちゃんから、やっぱり子供のときに、そんなふうに話してもらったんだそうだよ」

「そうなのかー。クツをあっというまに乾かすなんて『しんぶんし』ってすごいなあ。ねえねえ、おばあちゃんおばあちゃん、もっと昔の話をして」

 おばあちゃんは、ふと思いだして「そうそう、お前たち。クツの中に乾いた藁を詰めて、暖炉のレンガの上にお置き。むかしの魔法使いたちの便利な道具はないけれど、こうすると濡れたクツも、いくらかは早く乾くんだよ」

「すごいなあ、おばあちゃんは。やっぱり、いろんなことを知っているんだね。おばあちゃんがいれば、その昔のしんなんとかもいらないや」